051:譲れないもの *
setting from “鎮魂歌―requiem―”

 争う事には、もう飽きた。
 こんな事をした所で、得られる物など何も無いというのに。失う物ばかりだというのに。
 それでも、終わる事は無い。終われない。どちらかが潰えるまで。そんな事、無意味なのに。
 なのに、何故終わらない? 何故、皆気付かない?
「この争いは無駄にしかならない。今すぐ終えるべきよ」
 呟いた言葉には、即座に反論が返った。穏やかに。
「そんな事は無いよ。この戦いは、僕らの未来に意味ある結果を残すに違いないんだ」
「……敗者が誰であろうと?」
「それは決まっている事さ」
 諭す様な声。耳朶に溶け込む様な優しい響きに、騙されそうになる。彼の言が真理であるのだと。
 そんな物は、ただの戯言でしか無いというのに。
 騙されてはいけない。
「どちらが勝つのか、得る物が何か。何が正しいか。全て決まっているんだ。最初からね」
「違うわ。そんなの、違う」
「……違う? 何が」
 引き込まれてはいけない。
「決まっていないわ。これから決まるの、私達が決めるの! 自らの意志で!!」
 見誤ってはいけない。
 全ては、未来へ繋ぐ為の行為であった筈。争いは、その手段と成り得ない。武力で心は、動かせやしないのだ。絶対に。
 流されては、いけない。
「私は、私のやり方で救ってみせる。こんな方法なんかじゃ何も護れやしないって、この手で証明してみせるわ! 必ず!!」
 勢いに任せて捲くし立てた。彼は何処か寂しそうに微笑む。
「……そう。君と僕らは、道を違えたという訳だね。残念だよ」
 こんな時でさえ優しく響く彼の声は、酷く堪える。
「最早君は、僕らの敵だ」
 ――――それは、死刑を宣告されるより深く胸を抉った。
 これでもう、戻れはしない。幸せだった、あの頃には。

【 b a c k 】