008:自覚と無自覚 *
setting from “Jewelly Garden”

「君は、つよいね」
 ぽつりと零された呟きに、フェリルラートは隣に座る声の主を軽く見上げた。
 何故、そんな事を言うのだろう。その意図を読む事が出来ず、疑問の浮かぶままに自然と眉根が寄る。問いは声にならなかった。どういった質問の形にすればこの気持ちを伝える事が出来るのか、それが分からなかった。
「すごい顔してる」
「君が変な事を訊くからじゃないのさ……!」
「それはごめん」
 くすりと笑って、ラトゥールが言った。穏やかな微笑。それは、彼に良く似合う。彼の内面をそのまま形にしたかの様だ。
「でも、本当にそう思うよ。君は、つよい」
「何を根拠にそんなこと……大体、強いって何が」
「そうだねえ。心、なのかな」
 さらりと零された言葉を、フェリルラートは受け止め切れずにいた。そんな事は無い。心が強いなんて、そんな事は。
 突然黙り込んだフェリルラートに、ラトゥールは小さな微笑を返しただけだった。
「…………どうして、そんな事思ったのさ」
 ぽつりと落とした疑問は、問うて尤もであると思う。だがその時彼が見せた微笑みは、後悔を生むには充分であった。訊くべきでは無かったのだ、と。
「僕は、よわいから」
 呟かれた言葉と、哀しみの滲んだ微笑。其処に隠された何かが、それ以上踏み込んではいけないと、呼び掛けて来る様な錯覚に支配される。
 再び訪れた沈黙を破る様にして、ラトゥールが口を開く。酷く穏やかに、柔らかな低音が耳を擽った。しかしその声音は、何処か物寂しげな色を纏う様で。胸の内に、奇妙な感覚を残していく。
「君には偉大な力がある。そしてそれを、君は誇りに思っている。それは君がつよい証拠さ」
「……だと良いけどね」
 茶化す様な口振りで誤魔化して、溢れ出る感情を押し殺した。胸騒ぎにも似た、落ち着かない心。それに、捕われそうになる。どうしてこんな風に思うのかさえ、皆目見当が付かなかった。
「僕は力を、恐れる事しか出来ない。力を持つ事で、誰かを傷付けたくない……そんな勝手な自己満足を理由にして、現実から逃げているんだ。だから君の在り方は、僕にはとても眩しく映る。君が、羨ましいよ」
 彼の話は要領を得ず、理解する事は出来なかった。けれどただ、黙って耳を傾けていた。それで彼が求める何かを見出だせるのならば、喜んで聴き手になろう。
 いつしかその言葉は、フェリルラートに対して紡がれている物では無くなっていた。しかし尚の事意識を寄せて、彼の吐露を受け止めていた。根底にあるその思いは、何処か自分の抱く感情に似ていた様な気がするから。
「傷付ける事を拒んで、傷付ける事に加担したんだ。僕は」
 その言葉に秘められた本当の意味を知るのは、まだ先の話。

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