わたしは失いたくない。
今、この時を……。
◇◆◇
季節は初夏。真昼の日差しも厳しくなるこの時期。日除け代わりなのか、褐色のマントを身に着けた男が、見渡す限り砂と赤土しかない荒れ果てた大地に立っている。
「暑いな……」
男がどうでもよさそうにぽつりと呟いた。
しかし言葉とは裏腹に、男は汗ひとつかいていない。
フードの奥から覗く男の瞳は、目の覚めるような青。空を切り取ったかのようなその色はどこまでも澄んでおり、深い叡智を湛えている。
男の目の前に広がるのはぽっかりと開いた大きな穴。小さな村ひとつがすっぽり入ってしまうくらいの大きさだろうか。自然の産物には到底見えない。如何なる不思議がこの地を見舞ったのだろう。
男がこの不思議な穴の噂を耳にしたのはほんの二、三日前のことだ。立ち寄った町の酒場で聞いた昔話。百年以上前、この場所にはある村があったと言う。時の経過から名すらも忘れ去られたその村は、ある夜を境に忽然と姿を消したのだ。
後に残るは大地に穿たれた得体の知れぬ穴。
村の住人も皆どこへ行ってしまったのか、行方はようとして知れなかった。それから月日は流れ……。
今もその穴は風化によって形を変えるでもなく、その当時のまま存在しているという。そして、極稀に物好きがその穴に向かい、行方知れずになっているらしい。夜の闇にぼんやりと浮かび上がる人魂のような幾つもの明りを見た者もいるという。
そのような話を聞いて、男はこの場所を訪れる気になったのだ。
いわゆる物好き、と言うことになるのだろうか。
「これはなかなか。こうも見事に閉じているとは」
男は唇を歪めると、挑戦的な眼差しで穴の周囲をぐるりと見渡す。そして、背中の荷物が落ちないようにしっかりと背負い直すと、両足を肩幅に開き瞳を閉じた。
両手に神経を集中する。肘から下、男の両腕が淡く黄金の光を放ち始めた。みるみる輝きを増す両腕を天に翳すと、男は目に見えないなにかをしっかりつかむと、一気に引っ張った。ぐにゃり、と空間が捩れ、穴のあった場所に陽炎のように村の姿が浮かび上がった。
そして男は幻の村へと足を踏み入れる。乾いた風が土煙を巻き上げ通り過ぎた。そこにあるのは大地に穿たれた大きな穴。男の姿は、ない。
◇◆◇
こぢんまりした部屋に二人の少女がいる。一人は寝台に横になっており、その傍らにもう一人の少女が付き添っている。
窓辺のテーブルに、小さな桃色の花をたくさん咲かせた木の枝が、花瓶に挿して飾ってあった。時折、風に吹かれて頼りなげに花弁が揺れる。
「エリシャ、具合はどう?」
顔色の優れないエリシャを気遣い、リーディアは遠慮がちに声をかけた。大声を出すと病身のエリシャの体に障ると思っているのだ。
「ありがとう、リーディア。……具合が悪いのは相変わらずだけど、あなたが来てくれるといつも気分がよくなるの」
エリシャは大きな褐色の瞳を細めて、淡く微笑んだ。
彼女が病の床に就いてから、二月余りになる。
シーツの上に艶を失った栗色の長い髪が扇状に広がっていた。上掛けの上に投げ出された腕はとても細く、少し力を込めればあっけなく折れてしまいそうだ。
「そう? だったらこれからも毎日お見舞いに来るからね」
リーディアはにこりと笑い、エリシャの骨張った手を軽く握った。そして、その手の冷たさに泣きたくなる。
「リーディアの髪、いつ見ても綺麗ね」
不意にエリシャが青白く細い腕を精一杯伸ばして、リーディアの艶やかな黒髪に触れた。ぎこちなく髪を梳く手の感触を、リーディアは心に刻もうと体中の神経を集中させる。
「ありがとう。エリシャ、早く良くなって髪を結ってね。わたし自分じゃ上手に出来なくって……約束よ」
リーディアは肩から滑り落ちる黒髪を鬱陶しそうに後ろに払った。
「約束?」
「そう、約束だからね。絶対だからね」
リーディアは黒い瞳を潤ませ、どんなに堪えても震える声を忌々しく思いながら、エリシャの手を強く握り締めた。
エリシャは口元に笑みを刻むと、弱々しくリーディアの手を握り返した。痩せてこけた頬を一筋の涙が伝う。
二人は知っている。エリシャの体を侵している病魔が、決してその勢いを緩めないことを。この夏、二人が住む小さな村を襲った流行り病は、すでに十人余りの命を奪っていた。
開け放った窓から一際強い風が吹き込んだ。窓辺に飾った可憐な花が、その桃色の花弁をいっせいに散らした。
◇◆◇
(わたしに母さんのような力があったら)
エリシャの見舞いをすませて家に帰る道すがら、リーディアは思う。
リーディアの母親は十年前、彼女が七歳の時にこの世を去った。父親はいない。
母親は不思議な力――癒しの力――を持っていた。その力を認められ、神殿へ昇り、巫女として神に仕えていたという。
今はもう肉親のいないリーディアにとって、エリシャはかけがえのない大切な存在だ。いや、エリシャばかりでなく、寄る辺なき身となったリーディアに親身になってくれた村人たちも、彼女にとっては大切だった。
夏の初め、致死率の高い流行り病がこの村を襲った時、どんなにもどかしかったか。
母のような力があれば、みんなを救うことが出来るのに。幾度そう思ったことか。
親友のエリシャが病に倒れた時、これまで以上の無力感に襲われた。なんとしてでも助けたかった。毎夜、空に輝く星に祈りを捧げた。
どうぞ、エリシャをお助けください、と。
寝食を忘れて祈っても、その願いは届かなかった。病は確実にエリシャの命を蝕んでいったのだ。
(このまま時が止まってしまえばいいのに……。いいえ、みんなが元気だった昔に戻れればいいのに)
そう思わない日はなかった。
「おい」
暗い瞳で物思いに耽るリーディアは、声をかけられても気付かない。
「おい、そこの娘!」
一段と大きな声と共に、肩に手を置かれた。
リーディアは驚いて勢いよく振り返る。黒い瞳を大きく見開いて、相手を軽く睨みつけた。
彼女を呼び止めたのは見たこともない男だった。夏も盛りは過ぎたとはいえ、男が身に纏うのは褐色の厚手のマントだ。まだ暑いはずなのに、男は汗ひとつかいていない。
空を切り取ったかのような青い瞳は、深い叡智を湛えている。年はいくつくらいだろう。不思議な雰囲気を漂わせ、男は不敵に微笑んでいた。
「あなた、誰ですか? この辺りじゃ見ない顔ですけど」
見慣れない顔に、リーディアは険しい表情をする。辺境にある小さな村に、旅人が訪れることなど滅多にない。こんな昼間から物取りでもないだろうが、油断は禁物だ。仲間が周囲に潜んでいるかもしれない。辺りにちらりと視線を走らせる。
「驚かせてすまない。俺はイルトザート、人を探している」
落ち着いた響きを持つ、少し低めの声。堂々として物怖じしない男の様子に、リーディアは警戒を緩める。それでもなにかあったらいつでも逃げ出せるよう、距離は十分に取っておく。
「人探し?」
リーディアは胡散臭そうに男を見た。
「あぁ、そうだ」
イルトザートは平然として答える。なにか文句があるのか、といった感じだろうか。
「誰を探しているの?」
「さぁな。この村の誰か、なんだがな。案外お前かも知れんな」
イルトザートがにやりと笑った。
初対面の相手にお前呼ばわりされた上、まともに答えようとしない男の態度に、リーディアの苛立ちは頂点に達した。柳眉を逆立て、両の拳をぎゅっと握り締める。
「ふざけないで! 命が惜しかったら、一刻も早くこの村を出なさい。この村には流行り病が蔓延しているのよ!」
怒りも露に一気にまくしたてた。余所者に日常を乱されたくなかった。こんな得体の知れない男にかまっている場合ではない。今はエリシャのことで頭が一杯なのだから。
「俺だって早々に立ち去りたいさ」
やれやれといわんばかりに、イルトザートはおどけて肩を竦めて見せる。そのふてぶてしい態度に、リーディアが文句の一つでも言ってやろうと口を開く。
「あなたねぇ」
「この村は閉じている」
リーディアの言葉を遮って、イルトザートが意味不明なことを言う。ひどく真剣なその表情に、リーディアは吐き出そうとしていた言葉を飲み込んだ。
「誰もこの村から出ることは出来ない。そして入ることも。苦しみは永遠に続く。このままでは誰も救われない」
「な、なによそれ。あなた頭がおかしいんじゃない?」
男の意図が分からない。それなのに冷たく不快な汗がじっとりと腋の下を濡らす。自分でも何故かわからないまま、リーディアは怯えていた。
それは紛れもない恐怖。無意識のうちに両腕で自分自身を抱き締める。
「まぁ、いいだろう。気が向いたら俺に会いに来い。俺はこの先の空き家で夜露をしのぐとしよう」
すっかり怯えてしまったリーディアに、イルトザートは笑みさえ浮かべて一方的に告げると、踵を返し立ち去った。
◇◆◇
イルトザートと別れて家路を急ぐリーディアだったが、その心は徐々に冷えていく。気の触れた流れ者の戯言と、笑い飛ばせない自分がいて愕然とする。彼が言った事が真実だと、頭のどこかでもう一人の自分が肯定していた。
『苦しみは永遠に続く。このままでは誰も救われない』
イルトザートが別れ際に放ったこの一言が、脳裏にこびりついて離れない。黒い瞳が心の迷いを映して揺らめく。
「苦しみは永遠に……。誰も救われない? あぁ、エリシャ……」
今この瞬間にも病魔に苦しむ親友のやつれた姿がありありと甦る。
彼女を助けたい。それはなにものにも代え難い強い想い。
あの男ならエリシャを救えるのだろうか? それならば……。
リーディアはしゃんと顔を上げると、今までよりも力強く歩き出した。その瞳にもう迷いの色はない。彼女は家に戻ると、日が暮れるのをじっと待った。
◇◆◇
太陽の輝きは既になく、辺りが藍色に染まるころ、リーディアはそっと家を出た。
近所の住人たちに気付かれないよう、慎重に扉を開閉する。重く古びた木戸が、きぃ、と耳障りな音を立てた。
普段は気にも留めないその音に、リーディアは思わず首を竦めた。それでも気を取り直し、目的地へと歩き出す。
彼女はイルトザートに会いに行くのだ。胡散臭い男だが、エリシャを救うためならば怖くはない。
もしものために、台所から包丁を持って来た。それは布にしっかり包まれ、リーディアの右手におさまっていた。
(待っててね、エリシャ。必ず助けてあげるから)
それだけを強く想う。エリシャのことを考えていなければ、恐怖と緊張でどうにかなってしまいそうだった。
虫の音も風の音も聞こえない。星の瞬きすら、今は止まっているかのように静かな夜だ。全ての命が息を潜めて成り行きを見守っていた。
◇◆◇
イルトザートが夜露をしのぐと言っていた、空き家の前までやって来たのだが、そこで足が止まってしまった。どうしても一歩踏み出すことが出来ないでいた。何度も深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
(さぁ、勇気を出して。エリシャを、みんなを助けるのよ!)
そう自分で自分を鼓舞した時、声がかけられた。
「さっさと入ったらどうだ。待ちくたびれたぞ」
心臓が大きく音を立て、呼吸が苦しくなる。自然と胸に手を当てて、リーディアは一つ身震いした。
イルトザートにはこちらのことなどお見通しのようだ。今更逃げ出すわけにはいかない。リーディアは覚悟を決めて、家の中へと入って行った。
後ろ手に戸を閉めると、布に包んだ包丁に気付かれないよう背中に隠す。
「こんばんは」
動揺していると思われるのは癪なので、努めて穏やかな声を作る。
一方イルトザートはというと、非常に落ち着いた様子で椅子に座っている。
昼間身に着けていた褐色のマントはきちんとたたまれ、荷物と共に机の上に置かれていた。
リーディアは改めてイルトザートを観察する。昼間はフードに隠れて見えなかった彼の髪は淡い金色。男性にしては長いその髪を無造作に束ね、胸元に垂らしている。
晴々とした空の青を映す瞳にすっきり通った鼻筋。なかなか整った顔立ちで、顔だけ見ていると気品があり、まるでどこかの貴族のようにも見える。
「俺の顔になにか付いているのか?」
じっと凝視するリーディアの視線に耐えかねてか、イルトザートが冷たく言い放った。
ついつい見惚れてしまったのだと言う訳にもいかず、リーディアは無言で頭を振った。
「この村は閉じている」
溜め息と共に、イルトザートがまた昼間と同じことを呟いた。
「それはそう願った、力ある者がいるからだ」
ひた、とリーディアに氷のような冷気を放つ眼差しを向ける。リーディアの表情が見る間に凍り付いていく。
「故意にか、あるいは無意識にか。どちらかはわからないが、強すぎる願いはこの村を閉じ、時の流れから切り離した」
イルトザートが椅子から立ち上がり、ゆっくりとリーディアに近付いて行く。
「それは罪。この世の理を曲げるもの」
断罪者の言葉に、リーディアはただ立ち尽くす。
目の前の景色が歪んで見える。イルトザートの台詞が何度も何度も脳裏に響く。背中に隠していた包丁がするりと滑り落ち、乾いた音を立てて床に転がった。ずるずると背中を扉に擦りながら床にうずくまる。
「罰はもう十分に受けただろう」
イルトザートはリーディアの側に膝を付くと、その耳元に柔らかく囁いた。
リーディアの瞳から一筋の涙が零れる。
止まった時の中で苦しみ続ける親友のエリシャの姿が、目蓋の裏に浮かんでは消える。
本来ならば死と共にその苦しみは消えるのだが、エリシャに死が訪れることはない。永遠に続く苦しみに、ただ耐えるだけ。
そんなことを望んだわけではなかった。
ただ、エリシャと離れたくなかった。ただそれだけ。
だから願ったのだ、このまま時が止まればいいのに、と。いっそ、みんなが元気だった頃に戻れればいいのに、と。
「わたし……こんなことになるなんて思ってなかった。ただ願ったの。このままだとエリシャが死んでしまうから、そんなのは嫌だから、時が止まればいいって」
涙を流しながらも、リーディアは真っ直ぐにイルトザートを見詰めて話始めた。
「最初は本当に時が止まってしまったなんて気付かなかった。でも、だんだん変だってことに気付き始めたの。いつまで経っても季節が変わらないの。誰も村から出ないし、他の村や町から手紙も来ない。食べても、食べても、減らない食料。それなのに誰もそのことに気付いてない。気付いてるのはわたしだけ。だからわたし、気付かない振りをしていたの。わたしのせいで、わたしが願ったせいで時が止まってしまったなんて思いたくなかったから……。そうやって気付かない振りをして、エリシャのお見舞いに行って、苦しみ続ける彼女を……ずっと見てた。どうしたらいいのかわからなくって、見てるしか、なくて……」
リーディアは涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭いもせず、ただイルトザートを見詰める。
「そう、か。力があると知らなかったために起きた悲劇、か」
イルトザートがそっと瞳を伏せて呟いた。
「この閉じられた空間をあるべき時の中に戻す」
伏せていた瞳を開くと、毅然とした口調でリーディアに告げた。
「……時を戻す?」
涙を拭うと、不思議そうにリーディアが聞き返す。そんなことが出来るのだろうか、と瞳が不安げに揺れ動く。
「そうだ。歪められた時の流れを正すのが俺の使命。それが“時の守人”としての務め」
「“時の守人”?」
聞き慣れない言葉に、リーディアが首を傾げる。
「力を貸して欲しい」
それに気付いているのかいないのか、イルトザートはリーディアの両肩に大きな手を置く。
「力? わたしの?」
「あぁ」
躊躇いはなかった。自分の犯した過ちを正すのだ。そのためには命すら惜しくない。リーディアはそう思う。
でも、この村はどうなるのだろう。エリシャは、みんなは?
「時を戻したら、この村はどうなるの? エリシャやみんなは?」
漠然とした不安に耐え切れず、つい口を開く。
「時の環に還る。それが定めだ」
時の環に還るとはどういうことなのか。リーディアにはよく理解できなかった。
それでも厳しい表情のイルトザートを見ると、これ以上聞いてはいけないような気がして、開きかけた口を閉ざす。
「俺の手を取れ」
差し出された大きな掌に、リーディアは自分の掌を重ねる。
「思い出せ。お前が心から願ったことを」
その言葉に導かれるように、リーディアは瞳を閉じる。
そして強く心に想う。遠い昔、毎夜星に祈った切なる願いを。
(どうかエリシャをお助けください。あぁ、このまま時が止まればいいのに……)
「俺はイルトザート。時の流れを守る者。切り取られ、淀んだ時を在るべき環の中へ」
イルトザートの声が、リーディアの想いに重なる。
イルトザートの声を聞きながら、リーディアは意識が真っ白に染まっていくのを感じていた。時の環の中へと還って行く。清浄な時間の流れを肌で感じながら、リーディアは満ち足りた思いで意識を手放した。
◇◆◇
「……う、ん」
顔に眩い光を感じて、リーディアは低く呻いた。
「気が付いたか」
背中を支える誰かの手が暖かい。その温もりに勇気付けられて、ゆっくりと目蓋を持ち上げる。
視界に飛び込んできたのは、光り輝き照りつける初夏の太陽。ざあっ、とからからに乾いた風が大地を撫でる。
「ここは? わたし……。エリシャ! エリシャは? みんなは?」
不意に思い出した。時は戻ったのだろうか。村のみんなやエリシャはどうなったのだろうか。答えを求めて、傍らに居るイルトザートを見上げた。
「時は戻った。ここは昔、お前たちの村があったという場所だ」
そう言われて、リーディアは周囲を見渡した。しかし、そこには赤土が広がる乾いた大地があるだけ。
「お前たちが生きた時代から、百年以上が経っている。時が戻り、村も村人たちも塵となり土へと還った」
イルトザートは淡々と事実を告げる。
「そんな……。みんないなくなってしまったの?」
リーディアは愕然とする。時の環の中へ還るということの意味が、今わかった。百年以上も人が生きられるはずがない。時が止まってしまった時点で、もう村は生の理から外れてしまっていたのだ。
「あぁ」
「どうして? どうしてわたしだけ……」
こうして息をしているのだろう? リーディアは泣きたい気持ちを堪えて唇を噛み締める。時を止めたのは自分なのに。罪を犯したのは自分なのに。
「さぁ。時がお前を生かすことを望んだのだろう。さて、これからどうする?」
さらりと不可解なことを告げて、イルトザートは晴れやかな表情で問いかける。
「どうする、って……」
村もなくなり、家もない。知っている人はみんなこの世を去った。リーディアは途方に暮れてイルトザートを見る。
「じゃあ、決まりだな。俺と共に来い」
真剣な眼差しと共に手が差し出される。リーディアはどうしたものかとその手を見詰める。
時に望まれて生きることを許されたのなら。それならば“時の守人”だというこの男と共に生きることこそ、時が望んだことなのではないだろうか。そう思い、リーディアは差し出された手を取った。
(エリシャ、見ていてね。わたし、頑張るから。わたしみたいに罪を犯した人たちを助けるから)
そしてリーディアの長い旅が始まった。
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4500Hitを踏んだ際、「時間をテーマにした小説」というリクエストをさせて頂きました。
ぴよさん、素敵な小説をどうもありがとうございました!!
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