第13話 森のお茶会


「此処がふたつめの扉という事は、初代のアリスが“ワンダーランド”に来て二番目に会ったのがネリネだった……って事で合ってるのかしら?」
 頭の中の状況整理をする様に、問い掛けを口にする。
 現在ルピナスが辿っているのは、初代が歩んで来た道程と同じだという。彼女が会った者達と同じ順番で、同じルートで、最終地点である城を目指している。その根本的な理由については、ルピナス自身も未だ理解が及んでいない。だが、案内人を名乗る彼らに「そういうもの」として扱われてしまっては、今のルピナスには従う以外の道は無かった。
 そんなルピナスの気持ちを知ってか知らずか、アスターが淡々と答える。
「審判者の中ではな。正式に言うのなら、その間に俺とトレニアが入る格好だ」
「なるほど。一番最初がアリウムで、城を目指す過程で貴方達に会って……それからネリネ、って訳ね。でもちょっと待って。それなら貴方達はどうして“アリス”の審判を行わないの? 普通に考えたら貴方達が二番目の扉に居てもおかしくないんじゃない?」
 初代のアリスが出会った流れを踏襲するというのならば、其処の順番も同じであって然るべきだ。だが彼らは審判者の枠から外れて、案内人として存在している。ある種のイレギュラーとも言える形に収まっているという事は、それなりの理由があるのだろうか。
「初代アリスと出会って以降、俺達は城までの道程を共にしている。それゆえ彼女の歩んだ道を知る者として、他の“アリス”達を同様に導く為の案内役という立ち位置に置かれたんだ」
「全員が審判に回っちゃったら、“アリス”がひとりで移動しないといけなくなるしね」
「なるほど。確かに“アリス”ひとりじゃ決められたルートを進む事は難しい……だから文字通り貴方達が正規のルートを案内する係になっている訳ね、理解したわ」
 回答は簡単な説明であったが、納得は出来た。他の面子は出会って交流こそしたが、一度別れているのだろう。だが、彼らはそのまま城に同行した。つまりは審判者達よりも、長い時を初代と過ごしていたとも言える。もしかしたら、初代のアリスを一番知るのは寧ろ彼らなのかも知れない。
「それじゃあ、貴方達も初代と一緒にネリネに会ったのね?」
 サンドウィッチに手を伸ばしながら、ルピナスは尋ねる。料理の作り手こそ不明だが、綺麗な三角系を象ったそれは見た目からして芸術品の様であった。一口齧れば、瑞々しい野菜と芳醇な肉の味が口いっぱいに広がる。スイセンとネリネが用意したという話であるが、恐らく料理人は別に居るのだろう。言い方は悪いが、ふたりにこれだけの物が作れるとは思えない。
「そういう事になるな」
 料理に感動している間に帰って来た答えは、相変わらず簡潔であった。もう少し何か言えば良いのにとは思う節もあるが、変に言葉が飾られないというのは楽で良い。余計な表現を剥ぎ取ったアスターの言葉は、結論に特化していると言っても過言では無いのだろう。
「どういう流れでネリネに?」
「あ、それは僕がネリネに会いたいって言ったからだと思う」
 素朴な疑問を投げ掛けてみれば、トレニアが思い出した様に声を上げた。
「細かい事は覚えてないんだけど……確か此処の近くに居て。久し振りだったし会いたいなあって僕の我儘をふたりが聞いてくれたんだ。アリスも会ってみたいって、言ってくれて」
「そう言えばトレニアは、ネリネの事を友達だって言ってたわよね。付き合いは長いの?」
「うん。幼馴染みたいなものかなあ。付き合いの長さで言ったら、アスターよりも長いよ」
「……そうなのね」
 改めてお茶で喉を潤しながら、ルピナスは湧き上がる違和感の様な物に首を捻る。
「そもそも私としては、貴方達ふたりに親交があるっていうのが腑に落ちないんだけど……年も離れてそうだし、性格も全然違うし、共通点なんて何も見当たらないじゃない?」
 何かしら共通事項や近しい要素があれば、出会いのきっかけは生まれ易い筈だ。だがルピナスが見る限りでは、ふたりの間にそれらしい者は無い様に思う。だからこそ、付き合いが長いという事実を改めて認識した時に違和感が生まれたのだろう。尤も共通点が無くとも縁は生まれるし、親交が深まる事もあるのだ。正反対だからこそ、上手く噛み合う間柄というのも存在する。
 色々と考えすぎて、複雑な表情をしていたのだろうか。苦笑しながら、トレニアが口を開いた。
「あぁ、それは僕が――――」
「んにゃ……“アリス”ぅ……」
 その時、ルピナスの横の塊がもぞもぞと動いた。眠りのサイクルが起床の時間に入ったのだろうか。
「あ。起きたんだネリネ。おはよう」
「……おはよう……」
 寝起きで口が回らない様子ながら、ネリネが挨拶を返した。ごしごしと目を擦りながらも、隣に座るルピナスにゆっくりと視線を合わせ、微笑む。
「わたしも、“アリス”とお話、する……」
「さっきの話はまた今度になりそうね」
 ぽつり呟いて、ルピナスはネリネに向き直る。そうして彼女と真っ直ぐに見合って、頷いてみせた。
「ええ、お話ししましょう。それじゃあ、貴方の話を聞かせて? まずは……そうね。貴方が大好きな、最初のアリスについて教えて欲しいの」
「うん……!」
 アリスの名前に、ネリネは満面の笑みで頷いた。


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